学童期に進行しやすい「近視」
デジタル機器は私たちの生活にもはや欠かせない存在となりました。パソコンやスマートフォンなどの高い普及率に加え、最近では学校でもタブレットを用いた学習が一般的となりました。ゲームやSNSなど子供たちを取り巻く遊びの形も大きく変化し、さらにここ数年のコロナ禍による影響もあいまって、子供たちがデジタル機器に触れる時間はますます長時間化しています。しかしながら子供たちの体はというと、今も昔も変わらず大切な成長期にあたり、眼のつくりや機能も同様に発達の最中にあります。特に小学校高学年の時期のお子さんたちの眼は近視の進行が顕著にみられており、将来にわたる眼の問題が懸念されています。
小学校高学年で近視が進みやすい事情
学習時間の急激な増加
学童期には本格的な学習が始まります。教科書や読書など小さな文字に積極的に触れる機会が増え、特に小学校高学年では受験を検討されるご家庭も増え始めます。学習時間の増加とともに、正しい姿勢や環境の中でものを見る姿勢が守られていなければ、視力低下を招く危険性が高まります。
細かな作業に没頭しやすい
手先が器用になる高学年では、細かな作業を必要とする遊びにも長時間没頭できるようになります。中でもゲームや動画視聴など、小さな画面を長時間にわたって見続けることは、眼が大変酷使され疲れやすくなってしまいます。
眼球の成長期
眼はおよそ18歳までに完成すると考えられていますが、特に12歳までの学童期は眼球の成長が著しい時期に重なります。近くでものを見る癖や長時間のゲームなどで日常的に眼が酷使され続けると、ピント調整を行う毛様体筋と呼ばれる部分が疲弊します。ものがぼやけてみえるようになることで、成長活発な眼球そのものが変形(眼球の奥行が伸びる)を起こして無理に帳尻を合わせるようになってしまいます。これが近視を招く直接的なメカニズムとして考えられています。
近視を予防するためにできること
眼は一生使うことになる大事な部位です。成長過程の大事なお子さんの眼を守るために、今一度ご家庭内でのルール確認や以下のポイントに気をつけながら近視を予防していただきたいと思います。
正しい姿勢と環境に気をつけて
学習時には椅子や机がお子さんの体にあった高さとなっているかをまずはご確認ください。椅子には深く腰かけ、ひざが直角になる状態が正しい高さの目安です。机はひじが直角になる状態が理想です。手元を照らす照明は強い光が直接眼に入り込まない向きに注意しましょう。寝転んでの読書や暗い場所での勉強は絶対にやめましょう。
パソコンやタブレット画面は眼と垂直に30cm以上離して
パソコンの画面やタブレットを見る際には、眼と垂直な位置で30cm以上離して使います。必要に応じて画面の明るさや角度、高さなどを適宜調整しましょう。30分の使用につき、20秒以上は遠く(6m以上)のものを見るように意識して、定期的に眼を休ませる工夫が必要です。
Q.どうして遠くのものを見ると眼が休まるの?
A.私たちがものを正しく見るためには、眼のピント調整機能が欠かせない働きをしています。ピント調整を担う毛様体筋と呼ばれる眼の中の筋肉は、近くのものを見る際には緊張し、遠くのものを見る際には緩むようにできています。毛様体筋の伸び縮みを柔軟にすることで緊張がほぐれて眼が疲れにくくなります。
十分な睡眠時間の確保と質の良い眠りを
夜遅くまでデジタル機器を操作することは眼をはじめとする身体的な疲れを招くだけでなく、脳への影響も懸念されています。タブレットやスマートフォンなどの使用は、就寝1時間前までに終えて、ゆっくりとリラックスした状態で眠りにつくことが大切です。近年の研究によると、睡眠サイクルの乱れや眠りの質低下と近視の進行とは深い関係性がみられることがわかっています。
屋外での遊びを積極的に取り入れて
屋外で元気に遊びまわることは丈夫な体を作るだけでなく、近視の抑制においてもとても重要な意味があると考えられています。屋外に出ると自然と遠くのものや景色を眺めるようになるため、眼の緊張状態がやわらぎます。熱中症や紫外線対策にはくれぐれも留意して、一日2時間以上屋外で過ごす時間を設けるなど意識していただきたいと思います。
近視は将来的に緑内障や黄斑変性などといった疾患につながる可能性も―
近視の進行は年齢を重ねるとともに、さらなる疾患を招く可能性が高まります。例えば見える範囲(視野)が徐々に狭まってゆく緑内障や、ものが歪んで見えるようになる黄斑変性などといった疾患はその代表例です。さらには網膜剥離や網膜変性など、最悪の場合には失明につながるような深刻な事態へと発展する危険も考えられます。
当院では新しい近視治療法を積極的に導入いたしております
当院では小児のお子さんも安心して受けられる近視を抑制する点眼薬による治療(マイオピン)や、眠っている間に視力矯正を図るオルソケラトロジーなどといった新しい近視治療法を積極的に取り入れております。詳しくは医師やスタッフまでお気軽にお問いあわせください。
小学校高学年期の近視は世界的に急激な増加傾向にあり、大きな問題となっています
デジタル機器の普及とともに、昨今の新型コロナウイルスの影響も重なり、子供たちは屋内で過ごす時間が大幅に増えました。持て余す時間をゲームや動画などで手軽に解消できることで近視の進行がさらに加速しやすくなる悪循環に陥っているように思います。またその一方で、教育熱の高まりによってここ京都市内においても受験勉強にいそしむ低年齢の子供たちが急増してきていることを、実際の近視治療の現場において肌で感じています。ぜひ正しくものを見る姿勢を心がけて、ときには屋外に出て体を思いっきり動かす時間を大切に、一人一人夢に向かって全力を尽くしていただきたいと切に願います。